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「手、痛むんでしょ? 俺、連絡先、渡したよね」
「なんともないよ」
「そんなとこで何でウソつくんだよ」
「……」
リクは少しムッとした表情で玉城を見た。けれど反論はしてこない。
「俺だって医者に連れて行くくらいの金はあるよ。まあ、今のところ仕事、干されてるけど」
あ、手を洗ってない。
そんなことを思いつつ、玉城はガシガシリンゴを剥く作業をつづける。
押し付けがましい男に抗うのも面倒になったのか、リクはテーブルの横の椅子を引き寄せて大人しく座り、玉城を見上げてきた。
「フリーライターさんだっけ。玉ちゃんは」
「はは……。横文字だと格好いいように聞こえるね」
玉城は力なく笑った。リクも少しだけ笑い、じっと玉城の手元を見ている。
「ねえ、玉ちゃん」
「ん?」
「ものすごく不器用だよね」
「え?」
玉城は改めて自分の手の中のリンゴを見た。
剥かれたというより、削られたと言った方がいいそのリンゴは、何かの彫刻のように凹凸だらけだった。
「いいんだよ。リンゴなんてこんな感じで!」
「そう?」
「細かいなあ、男のくせに」
玉城は少しムッとし、何とか剥き終わったゴツゴツのリンゴをリクに差し出した。
「ほい。むけた」
「……ありがとう。それ、食べていいよ。僕リンゴ好きじゃないんだ」
当たり前のような顔でリクは言う。
「はあ~? 好きじゃないのに何でリンゴ剥くんだよ」
「剥いたのは玉ちゃんだよ」
「リクが剥こうとしてたから剥いたんだろ!」
「だから、ありがとうって言ったじゃないか」
何でそんなふうに怒るんだよ、とでも言いたそうにリクはクルリとした目を玉城に向ける。
「ダーーーーーッツ! わっかんねえぇーーーーー!!」
玉城は左手で頭をガシガシ掻きながら、腹立ち紛れにリンゴにかじり付いた。
けれど髪に触った手は果汁でベトベトで、またひと声喚いてジーンズで拭う。
リクはそんな様子を見て可笑しそうにクスクス笑いながらキッチンに入って行き、ハンドタオルを水で濡らすと、まだ手をこすっていた玉城に手渡してくれた。
「……どうも」
どうしようもなく調子が狂う。
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