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「え? ここに来るの? いつ? 昼間?」
思わず玉城の声が裏返った。興奮して頭皮がゾワリと粟立つ。
「早朝の時もあれば、深夜の時もある。……夜が多いかな。そんな時、僕は一晩中彼女に相手をさせられるんだ。僕の中に入ってきて、寝させてもらえない」
玉城はショルダーバッグを落としそうになった。
「な……何の話してんだよ。17、8の女の子だよ? そんなわけないでしょ。ジョーダンはいいから。で、……その子はどこに住んでるの?」
少しばかり腹を立てながら玉城は先を促した。
くだらない冗談はスルーするに限る。
「住んでる所はわからない。体はもう無いから」
「……は?」
「ここに来るのはいつも魂だけだから。その子の」
リクは玉城の目をじっと見ながら、何気ない会話を交わすような口調でさらりと言う。
そんな真っ直ぐな目で嘘をつく人間を玉城は知らない。
けれど、とうてい信じられるわけもない。
いったい、何のつもりなんだろう。更なる苛立ちが蘇ってきた。
「幽霊だってこと?」
「そういう言い方のほうが近いかな」
「近いかな……て、それを信じろっていうの?」
「信じなくてもいいよ、別に」
リクは急に子供のようにムッとした顔をして、洗筆油に筆をポンと投げ入れた。
「そっちが聞くから答えただけだろ」
「そりゃそうだけど、普通むりでしょ。常識的にさ。笑えないし。俺、その手の話、だめなんだ。悪いけど」
リクはじっと真っ直ぐキャンバスを見つめたままだったが、やがて少しうつむいて、フッと自嘲気味に笑った。
「普通、とか、常識、とか、その手の話、とか……」
そして、ゆっくり玉城を見た。
「子供の頃からずっとそんな目で見られてきたからもう慣れてる。いいよ。でも、玉ちゃんにはあの子が見えるかと思ったんだけどな。……何か、僕と同じニオイがしたから」
「同じニオイ? 俺は霊感とかまるで無いよ。変なこと言わないでくれって」
「それは玉ちゃんが気がつかないだけだろ?」
「どうしてそう言えるんだよ」
あまりしつこく食い下がるので玉城も少しムキになった。
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