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瞬間、目の前の出来事に玉城はパニックになり、飛び出すや否や、男を抱き起し、ひたすら謝った。
「ああ、何とか大丈夫です、かすり傷ですから。どうでしょうね、示談と言うことにしませんか? 免停にならなくてすむでしょう? おや、あなたの車では無い? それなら尚のこと、面倒は避けた方がいいんじゃないですか?」
ただ謝るばかりの玉城にその男は優しい笑顔でそう言った。
50万という金額を提示して。
それが詐欺だとわかったのは金を渡した後だった。
あんなに簡単に人は騙されてしまうものなのだ。玉城は改めて思い知った。
「半分って言いました? 残った半分にまた利子が付いて膨らみますが、分かって言ってますか?」
坊主頭は更にグイと玉城に顔を近づけた。
かろうじて敬語だが、顔はどう見ても威圧しているとしか思えない。玉城の端正な顔が次第に青ざめていく。
「そこをなんとか・・・」
「なんともできませんね、お客さん。こっちも信用して貸してんですよ。リスクしょって。そっちも誠意見せてもらわないと。なんなら体で払って貰いましょうか?」
もう敬語の意味がわからない。そして冗談にしては質が悪すぎる。
血の気の引いた頭で玉城は絶望的にうなだれた。八方ふさがりだ。
「ねえ、そこのあなた。もし良ければ、その借金と引き替えに一つバイトを引き受けて貰えないでしょうかね」
突然しわがれた声が店のパーテーションの後ろから聞こえてきた。
「小宮社長・・・」
坊主頭が声の方向を振り返る。
パーテーションの後ろから出てきたのは、白髪交じりの頭に白い口ひげの男。社長の小宮だった。
社長、というより、「小宮老人」と言った方が近い。皺が深いわけではないが、白い髭のせいで老人に見える。
「どうですか? 玉城さん」
小宮老人は顎髭を触りながら、玉城にニッコリと笑いかけた。
◇
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