144人が本棚に入れています
本棚に追加
「あ、玉城さん!」
「はい?」
「どうか、その人物に会っても話しかけたりしないでくださいね。絶対に。もし危険な人物だったら何をされるか分かりませんから」
玉城はその気遣いにジンとした。
同時に自分はすべて知っているという罪悪感が胸を締め付ける。
八方塞がりだった。いったい、どうするのが最善なのだろう。
電話を切り、途方に暮れる。
ただ椅子にもたれてボーッと向かいの画廊を見つめ、ひとつ大きくため息を吐く。
と、その時。
見覚えのあるスーツ姿を玉城の目は捉えた。
「ん?」
ベージュのスーツ。黒く長い髪を後ろで束ねたキャリアウーマン風の気の強そうな女性。
見覚えがあるというものではない。
あの女は……。
「ああああああっーーーーーーーー!」
真っ昼間の人通りの多い大通りで玉城は道を挟んだ向かい側のその女性を指して大声を出した。
玉城の頭の中は大パニックだ。
驚いたことに、それに気付いた女の表情も見る見る変わり、眉と目をつり上げながら車道を突っ切り、こちらにズンズンと歩いてきた。
“どういうこと?”
女は更に怖い顔つきで玉城のすぐ側まで靴音を響かせながら近づくと、仁王立ちしたまま言った。
「あんた、弁護士なの?」
「は?」
女の質問が理解できない。
「べ……弁護士って何です?」
しどろもどろになりながら玉城は女を見上げた。
近づくと更に、その背の高さに気圧される。威圧感がすごい。
殴り合いをしたら確実に負けそうだと思った。
「やっぱり全部嘘なのね。 まあ、そんなことだろうと思ったけど。……で? なんであんたはグルになったの。リクに私のこと何て紹介されたわけ?」
凄まじい迫力に、玉城は小さな子供のように縮こまって答えた。
バカ正直に。
「しつこく追いかけてくる……幽霊」
最初のコメントを投稿しよう!