第6話 嘘

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仁王立ちしたまま女は見る見る顔を赤らめ、しまいにはダンダンダンと足を踏みならした。 「今度会ったらブッ殺す!!」 もう玉城は今すぐにでも逃げ出したい気分だった。 「い、いや……そんな、物騒な。落ち着いてください。」 「落ち着いて下さいじゃ無いわよ!あんたもバカじゃない? なんでそんな嘘を簡単に信じちゃうのさ。あいつの目を見たら分かるでしょ? 人を小馬鹿にして世間を舐めて、本当の事なんて何一つしゃべろうとしない。それともあんたの目は節穴なの? そんなんじゃ、いつか詐欺にでも引っかかるわよ」 初対面でこんなに罵倒されたのは初めてだった。玉城は泣けてきた。 そして、かなり的を得ている。詐欺にはもう、引っかかった。 「あ……。嘘……なんですね?」 「当たり前じゃない。どこの世界にこんなハッキリした幽霊がいるのよ。あの男はね、嘘しか言えないの。根性ねじ曲がってるんだから。だからまともに人と接することも交わることもできない。自業自得よ。 いい? あいつがしゃべることは何一つ信用しちゃだめよ。信用して痛い目に合った人間は山ほどいるんだから」 「あの……あなたは?」 「私?」 女はやっと少し我に返ったように一つ深呼吸すると、ゴソゴソとバッグの中を探り、一枚の名刺を取りだした。 「私は美術誌『グリッド』の編集部部長、長谷川と言います」 「グリッド? グリッドって言ったら大東和出版の? 僕、グルメ誌でお世話になったことあるんです」 玉城も慌てて名刺を取り出す。 「へえ、ライターさんなんだ」 長谷川は興味深そうに玉城を上から下まで見回した。 「あの……長谷川さん、なんで僕を弁護士だと思ったんですか?」 「リクが言ったのよ。あまりしつこく追い回すなら知り合いの有能な弁護士に介入して貰う。あなたをストーカーに仕立て上げるのなんて簡単だって。ふざけんなってのよ、まったく!」
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