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薄雲が切れて、少し青空が顔を覗かせた。
玉城は来た道をまたボロ自転車に乗って滑走する。
最悪の事態は免れた。けれどもあの金貸しの老人のバイトとは何なのか不安だった。
後日また連絡するからと携帯番号を教えさせられた。断る理由も権利も無いことは分かっていたが、やはり不安がつのる。
確かに従業員はあの坊主頭と事務員くらいしか見あたらなかったが、なぜ自分に仕事を振るのだろう。
しかも50万の借金を帳消しにするという好条件で。考えれば考えるほど不安が押し寄せる。
今は考えないでおこう。もしヤバイバイトだったらその時きっぱり断ればいいんだ。
玉城は自分に言い聞かせ、気合いを入れるようにハンドルをギュッと握り直して公園へ続く路地を右折した。
その時。
「たっっ!!! あっ・・!」
いきなり人影が飛び出してきた。
すんでの所でブレーキをかけたが年期の入ったボロ自転車だ。
大きな音と共にチェーンが外れ、ブレーキハンドルはいきなり何の抵抗もしなくなる。
思い切り足で踏ん張り止めようと試みるが、逆にバランスを失った自転車はその人影と鈍い音を立ててぶつかった後、飛び降りた玉城から5メートル先まで走り、街灯に衝突して沈黙した。
玉城の心臓は破裂するのではないかと思うほど激しく鼓動した。
男が倒れている。自分がぶつけてしまった。
玉城はガクガクする足でうつぶせに倒れている男に走り寄った。
「だ・・・大丈夫ですか!? あの・・・あの・・・」
すっかり取り乱し、その男の肩を掴みガシガシゆすった。
「いっ・・・いたい。・・・イタイ・・!」
突然スイッチの入ったオモチャのようにその男は右手首を押さえてうめき声をあげた。
「よかった! 生きてる!」
思わず安堵の声をあげる玉城。
「良かったって・・・ひどいな。痛いって言ってるだろ」
ガバッと上半身を起こし、その男は不機嫌そうにグイと顔を上げると、玉城を睨んだ。
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