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「ねえ、お願い!」
その男は少し真顔になり、左手で玉城の腕を掴んできた。
「お詫びとか病院とか、もういいからさ、ちょっとお願い聞いてもらえる?」
男は声を潜めて早口にしゃべりかけてくる。
「なんです?」
「僕の恋人のふりをして欲しい」
「・・・は?」
一瞬意味が分からなかった。
「ね、今だけ」
「僕、男ですよ?」
「見りゃ分かるよ。やるの? やらないの?」
「やっ、・・・やります!」
訳の分からないまま勢いに押されてそう言い、玉城は男に促され、立ち上がった。
男は玉城よりも少し背が低かった。体つきは玉城よりもスラリとしている。
玉城の右側に体を寄せて並び、玉城の腕をぐっと掴んで引き寄せる。
“どういうこと? いったい何?”
男にしっかりと腕を掴まれて寄り添われ呆然としている間に、さっきの大女はすでに息を切らせながら玉城達の前に立ちはだかっていた。
「リク!」
長い髪を後ろで束ね、きっちりとしたベージュのスーツに身を包んだキャリアウーマン風のその大女は、そう叫ぶとキッと玉城の横のその男を睨みつけた。
玉城は動くことも出来ず、ただ金縛りに遭ったように立ちつくした。
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