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玉城には表情は見えなかったが、横で確かに男は軽くフッと笑った。
「ね。言った通りでしょ? この人がそう」
そう言って男は玉城の腕をさらに引き寄せる。
次の瞬間女は鬼のような顔つきで玉城を睨みつけた。
背筋に電流を流された様にビクリと震え上がる。
女はもう一度男に視線を戻すと、手を腰に当てて仁王立ちになりながら「最低だな!」、と鋭く言い放った。
男がすぐ横でもう一度ニヤリとしたのが分かった。
女はクルリと向きを変えると、もう何も言わず、振り向きもせずにズンズンと来た道を帰って行ってしまった。
「いったい何! どういうこと?」
女が遙か向こうに行ってしまうと玉城は、横の男の腕を逆に掴みなおしたが、男は迷惑そうにその腕を振り払うと、少し疲れたような笑顔を作った。
「女って怖いよね。もうずっとあんな感じで追いかけられててね。まるでストーカーだもん。あんな形相で追いかけられたら怖いでしょ? 逃げるよね?
男の恋人がいるって言ったら、あきらめるかなって思って」
「え……そうなんですか? なんかキャリアウーマン風で、そんな感じには見えなかったけど」
「信じないならいいよ」
男は少しすねたような表情をして体のホコリをはらうと、フイと背を向け数十メートル手前に落としてきた荷物を拾いに戻った。
「あ、ごめんなさい。信じてないとかじゃないですから!」
慌てて取り繕う。どうやら気むずかしい男らしい。
男は不機嫌そうに公園の土の上に置き去りにされていた四角く厚みのある荷物を、右手で持ち上げようとした。
けれど一瞬顔を歪ませ、右の手首を左手で抑えた後、その荷物をまた土の上に落としてしまった。
ドキリとして慌てて走り寄る。
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