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「大丈夫? もしかして手、痛むんじゃ……」
「痛くなんかないよ」
「いや、絶対痛めたんだ。僕のせいです! と、とりあえず家まで送ります。家どこですか?」
「僕、男に興味ないよ?」
「何の話をしてるんですか! とにかく送ります。送りますって言っても車は無いんですが」
玉城は遠くで果てている自転車をチラリと見た。
男もその視線を追って自転車を確認し、そしてクスリと笑った。
「じゃ、家、すぐそこだから荷物だけ運んでもらおうかな」
根負けしたようだ。
とにかく大事に至らなくて良かった。
そう安心しながら玉城はその荷物をスクラップ寸前の自分の自転車の荷台に乗せる。
かなり大きな平べったい箱なのでずり落ちそうになるが、男がそれを左手で押さえてくれたので、玉城はそのまま自転車を押して歩き出した。
公園を抜けて筋を一歩入ったとたん大通りの喧噪から離れ、緑の木々が綺麗に植えられた閑静な住宅街が広がっていた。
小鳥の声さえ聞こえる、不思議で、懐かしい景色。
「もし後で体調とか悪くなったら連絡してくださいね。番号教えますから。あ、僕はタマキと言います。丸い玉の玉に、シャトーの城」
「たまき……? じゃあ、玉ちゃんだ」
「いや、そう呼ばれたことないけど。ま、まあ、何でもいいです。ええと、あなたは」
「僕?」
「リク……リクさんでしょ? あ、下の名前か。ごめんなさい」
「うん、リクでいいよ。敬語もいらない。たぶん同じ年くらいだろ?」
「あ……はい、了解」
気難しいのかと思ったが、話してみるとけっこう人なつっこい。
よく分からない男だと玉城は思った。だが不思議と嫌な感じはしない。
とにかくぶつけた相手が前のような詐欺師でなくて良かったと思った。
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