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十二月。真冬の夜七時。乱暴に玄関を開けたい気分だった。だけど壁が薄いボロアパートではそんな音ですら揉め事の発端になることもある。河嶋 奈津希(かわしま なづき)はため息をつきながら狭いながらも愛着のある自分の城から出て行くのは嫌だと静かに玄関をあけた。 「ただいま…」 当たり前だがそこには誰もいない。でも帰ってきたらただいまを言うのがもう癖になっていた。奈津希はでかでかと部屋を占領するシングルベッドにダイブした。叫び倒したくなる気持ちと泣きたくなる気持ちを抑える。奈津希は三つ子の末っ子、河嶋 葉津希(かわしま はづき)と喧嘩をしてしまいそのまま葉津希をほったらかして自分の家に帰ってきていた。最近、奈津希は何事も上手くいかず空回りしてしまう。生活費のためのバイトも失敗して沢山の人に迷惑をかけてばかりだ。正直葉津希にいつもよりきつく当たってしまったのは奈津希の八つ当たりだ。イライラして葉津希に当たるなんて最低だ…。奈津希は今日、何度目かわからないため息を深くついた。
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