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「奈津~開けろ~」 玄関からした男の声に奈津希の心臓は跳ね上がった。体が固まってしまう。 「いないのか?奈津~」 もう一度声をかけられて奈津希ははっとした。慌てて玄関に向かいドアを開ける。 「お前いるなら返事くらいしろよなっ」 綺麗な歯を見せて笑っていつものように奈津希の額をつつく。 「春くん…ここ声響くんだから..」 宮塚 春(みやつか はる)は奈津希たち三つ子の幼馴染だ。もともと奈津希たちの家のお隣さんで親同士が仲が良く昔から四人ずっと一緒だった。奈津希たちが小学五年生のときに両親が交通事故で亡くなったときも春の両親が家に泊めてくれたりお葬式で祖母の手伝いをしてくれたりいろいろ良くしてもらった。奈津希たちは祖母の家に引き取られたが幸い転校などはなく中学までは同じだった。高校は全員別々になってしまったけどよく四人で会うし一人暮らしの奈津希の家に春がこうして遊びに来るのも珍しくない。そして奈津希はそんな春に恋をしている。自覚したのは中学の時だった。思春期真っ只中。混乱して悩んで未だに想いを伝えることは出来立ていない。奈津希はもう伝えなくてもいいと思っている。奈津希の所為で春に無駄な悩みを増やしてしまいたくないし何より春に嫌われたくない。春は奈津希の頭をぽんぽんと撫でると当たり前のように部屋に入っていく。 「今帰ってきたのか?」 「うん。ちょっとおばあちゃんの家に行ってて…帰ってきたばっか。」 春は奈津希のベッドに座ってもうくつろぎモード。春の脱いだ学ランとマフラーを奈津希が拾ってハンガーにかける。いつもの光景。 「奈津。ちょっと相談があるんだけどいいか?」 春がベッドに座りなおしたのでちゃんとした話なんだと奈津希はベッドの下で春と向かい合うように座った。
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