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湯気が立つコーヒー。いい香りが漂う。これを飲んだら夕飯にしようか。なんてことを奈津希は考えていた。家に帰ってきたときよりは心が楽になっている。
「ごめんね。はい。コーヒー」
「おう。サンキュ。志津か?」
春はマグカップを素直に受け取るとすぐに志津希の名前を出した。びっくりして奈津希は目を見開く。春がふふんと得意げに笑った。
「なんでわかったのかって顔だな。わかるよ。何年一緒にいると思ってるんだ。」
また春が奈津希の額をつついた。少し春を睨みながら奈津希はコーヒーを飲む。
「春くん今日から泊まるんでしょ?荷物は?」
春の荷物は学校指定の鞄しかなかった。春のことだから教科書類は全部学校に置いてあるんだろうけど服はさすがに長身の春に細身の奈津希の服は小さすぎる。
「駅のロッカーに置いてきた。今から取ってくる。」
奈津希のアパートから駅はさほど遠くない。春は奈津希が断るとでも思って保険をかけたんだろうか。俺が春くんの頼み断れないの知ってるくせに。春らしいと言えば春らしい。絶対に決めつけたりはしない。さっきの頼み方だってずるいけど押し付けがましいわけじゃないから奈津希は嫌じゃない。むしろ春なら嬉しいとさえ感じてしまうのだからもうおかしい。春だから。この単語がやたらと増えた気がして奈津希は頭を少し横に振った。油断したらだめだ。奈津希は春に自分の気持ちを悟られる訳にはいかないのだ。
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