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費やした時間と労力が、
また全部、徒労となった。
虚無が影になって、肩に張り付く。
それは少しずつ重さを持ちはじめ、
ゆっくりと押しつぶしてくる。
耐えられなくなる前に、
ベッドに倒れるように身を投げ出した。
そうして、これから襲ってくるものに備える。
何年か前から、
難題に挑み続けるストレスに、精神を蝕まれ始めた。
精神は体と繋がっている。蝕みは次第に体にも表れた。
音が聞こえ始めた。
小さい時に歯医者で聞こえた、ドリルの回転音。
その音を出しながら、
掘削機はドリルとギザギザの刃を回す。
音が目一杯高くなる。
それは神経に直接響くような高さになっていた。
これから、精神の掘削が始まる。
柔らかくて瑞々しい果実、
回転した刃がゆっくりと近づき、
痛めつけるよう、肉を引きずりはがす。
削ぎ取られた肉は、
どこかに落ちて、べちゃりと音を立てた。
ひたすらされるがまま。
削り取られていくしかなかった。
以前には、その感覚から身を守る殻があった。
その希望という殻は、長い時間をかけて壊され、
もう骨さえ残っていない。
掘削機が、深くまで破壊し、
その刃が中の芯に刺さる。
その衝撃は神経を揺らし、乱暴に体に伝えられる。
眼球がひっくり返り、眼の裏で光が爆ぜる。
子供の手で乱暴に振り回される人形のように、
体が飛び跳ねながら震える。
芯までズタズタにすると、掘削機は離れる。
そこからは血が滲み流れる。
空気のゆらぎだけで、激痛が走る。
その様子を確認すると、掘削機は移動する。
別の果実を見つけ、それを穴を開けに移動する。
それが繰り返される。
何分か、それとも何時間か。
気がついたときには床に倒れていた。
汗で張り付いた服が、気持ち悪かった。
口の中は鉄錆の味がした、
頬を噛んでしまったようだ。
立ち上がろうと体を動かすと、
みしりという音と一緒に、体中が痛んだ。
巻き添えになったらしい、
倒れている椅子を起こして、そこに座った。
もう諦めて、ギブアップを宣言して、
薬を飲んでしまおうと思った。
デスクの一番上の引き出し。
唯一歪んでいない引き出し。
薬が入っているその引き出しに手をかける。
頭の中から声が聞こえた。
『約束だ』
いつかの親友の言葉が、
手を引き止めた。
『頼んだよ』
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