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行き場を失った手は、だらりと横に下げられた。
その声に悪態をつく体力は、もうない。
代わりに机の上の写真立てに非難の目をやった。
20年前の写真には、若い男が映っている。
18歳で博士号を取得した若き天才。
生態系のブラックボックス、
その一端を解き明かした彼は、
同時に地球が終わり近づいていることを発見した。
そして
「でも僕なら3年もあれば解決するよ」
と言い切った。
世界の危機を救うことに
自信を持っていた若者。それは20年前の親友。
だが世界は非情だった。
その写真を撮ってから、
幾ばくもなく、親友は倒れた。
親友の脳は、
取り返しのつかないほどに異常な発達をしていた。
それが親友を天才たらしめた理由であり、
同時に親友を殺す原因になった。
親友は写真と『約束』を残して、先に逝った。
『約束』
それが、今の俺をこの問題につなぎ止めていた。
だらりと下げられた手を動かし、頭を抱えた。
体を丸めて、肺の空気が無くなるまで叫んだ。
そうして真っさらにしてから、
投げ出した問題を再び手にとった。
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