未来

4/5
前へ
/20ページ
次へ
行き場を失った手は、だらりと横に下げられた。 その声に悪態をつく体力は、もうない。 代わりに机の上の写真立てに非難の目をやった。 20年前の写真には、若い男が映っている。 18歳で博士号を取得した若き天才。 生態系のブラックボックス、 その一端を解き明かした彼は、 同時に地球が終わり近づいていることを発見した。 そして 「でも僕なら3年もあれば解決するよ」 と言い切った。 世界の危機を救うことに 自信を持っていた若者。それは20年前の親友。 だが世界は非情だった。 その写真を撮ってから、 幾ばくもなく、親友は倒れた。 親友の脳は、 取り返しのつかないほどに異常な発達をしていた。 それが親友を天才たらしめた理由であり、 同時に親友を殺す原因になった。 親友は写真と『約束』を残して、先に逝った。 『約束』 それが、今の俺をこの問題につなぎ止めていた。 だらりと下げられた手を動かし、頭を抱えた。 体を丸めて、肺の空気が無くなるまで叫んだ。 そうして真っさらにしてから、 投げ出した問題を再び手にとった。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加