俺と彼女とマイハニー

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A「さっき、なんて言ったの? そういえば、いつの間にかチャイムも鳴ってたのね。本読んでたからかな、気づかなかった。ごめんなさい。私ときどき、とつぜん耳が聞こえなくなるの。すぐに治るんだけど……」 B「耳鼻科行け。今すぐに」  どうやら彼女はかわいいけれど、噂通り変わっているようだ。普通、ときどき突然難聴になるのを放置するか? あり得ない。俺は直球で、帰り道にある学校近くの耳鼻科を教えた。今の時間だと十分に寄れるだろう。保険証と金があればの話だが。教えるだけ教えて、お役御免とばかりに俺は再び歩を進めた。琴電まであと少し。すぐ近くに迫った俺に、彼女は眩しいほどの笑みを浮かべた。 A「ありがとう。病院まで教えてくれて……。すごく優しいのね」  初めて見る彼女の、満面の笑みはやたら嬉しそうで――。きっとこの眩しさは逆光だ、そうに違いない。それ以外にあってたまるか。俺は急に異常なほど働きだした心臓をごまかして、何食わぬ顔で机の中を漁った。そうしていると、彼女が鞄を手に持って軽やかに立ち去った。 A「ほんと、ありがとう。今から行ってくるね! あ、あのっ……、また明日、ね!」  保険証とかあったのか。俺は無事にハニーをそっと抱きしめて、眩しい彼女を見送った――。  ――それから俺たちがどうなったかって?  決まっている。彼女の耳の具合は少しずつ改善され、ウケが良くなりますます人気が高まったのは頂けないが……。晴れて変わり者カップルになったのさ。  電車オタクが抜け駆けしたと、男共には恨まれようが。  ハニーと彼女をこよなく愛する、今の俺には敵なしだ!
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