41人が本棚に入れています
本棚に追加
/22ページ
検査から一週間後の朝、寝室に小さく響いたメールの受信音は僕を目覚めさせるには充分だった。
「今何時?」
50年程前から生活の主流になったウェアラブルデバイスに話しかける僕の声は、寝起きのせいかいつもより少しざらついていた。
「午前6時です」
ラプラスにも搭載されていた女性の声が静かな寝室に響く。
おかしい。アラームは7時に設定しているから、普通のメールは受信音がでないはずだ。そこまで考えて受信音の原因に気付いた。
「もしかして検査結果?」
「そのようです。内容を確認しますか?」
「うん。頼むよ」
「検査結果はおおむね異常ありません。しかし、寿命に関して重大な報告があります」
重大な報告。
その言葉に僕は特に違和感を覚えなかった。
寿命に関する情報、もっと端的にいえば人の命に関する情報に重大でないものなどないと思っている。命に関することを情報という言葉を使って表すことにも違和感を覚えるほどだ。
「で、何歳なの?」
ただこの時は、時間を尋ねるような感覚だった。
今にして思う。
まるで実感のないものに対して、人間はいつの日だって鈍感だ。たとえそれが、どれだけ巨大でわかりやすい顔をしていても。
「あなたの寿命は99.99パーセントの確率で21歳と35日です。余命は45日です」
最初のコメントを投稿しよう!