第八章 最後の日々

15/32
35人が本棚に入れています
本棚に追加
/103ページ
看護師は、私に事務的に挨拶して持って きていた紙袋を椅子から持ち去ろうとし た。 私は彼女を呼び止めて、母の病室担当の 看護師かどうか確認することにした。 「すいません・・・失礼ですが、あなた は母の新しい担当看護師さんですか?」 彼女は、私に呼び止められて気にさわっ たのか、露骨に嫌な顔をして睨み付けた。 「いいえ、違います。 私は心療内科担当 の看護師です。 今、先生があなたのお母 様のカウンセリングをしている最中です ので、部屋付きの看護師には席を外して もらっています。 だから、私が代わりに 受け取りに来ただけです。 これでご理解 できましたか?」 さらに、彼女は一気に自分の事を説明す ると、私が答える前に紙袋を持って立ち 去った。 私は少し驚いてしまったが、洗濯物の持 って帰る分を看護師長に聞いた。 「すいません・・・最近の若い看護師は、 コミュニケーションに問題があるようで、 申し訳ございません。 持ち帰りの洗濯物 ですね、只今確認しますので少し待って いてもらえませんか」 看護師長は、先ほどの看護師の態度を一 言謝り、小走りで病室に向かって行った。 しばらく椅子に座り看護師長が帰って来 るのを待っていると、母の病室のドアが 開く気配があり、そちらの方を向いてみ た。 病室内から看護師長と心療内科の先生が 一緒に出て来て、廊下で待っていた私の 方へやって来た。 何故、心療内科の先生が私に用事がある のだろうと思いながら、相手の様子を見 ていた。 先生が私を見つけると挨拶してきたので、 私も椅子から立ち上がり、挨拶をした。 私は、母の様子を看護師長に尋ねるつも りでいたが、心療内科の先生の方からこ こ数日の母の様子を聞かせてくれた。 母は、3日前にまた下血したというのだ。 そして、母の症状も悪化して1日に数回、 呼吸困難を引き起こすらしいということ だった。 先生は、私に一度母に面会してはどうか と提案してきた。 しかし、じゃあ・・・会ってみますと簡 単に答えることができなかった。 母の体調が悪化している時に私が面会に 行くと、また怒らせるだけだと思い、躊 躇していました。 先生は私に大丈夫ですよ・・・お母様の 声がかなり聞き取りにくくなっています が、あなたに会いたがっておられますと 言った。
/103ページ

最初のコメントを投稿しよう!