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血と腐臭が立ち上る世界で彼女は輝いていた。
…絶望的なこの状況の中で。
なぜ君は笑えるんだ。
『だって、好きな人と一緒にいられるのって幸せなんですよ。だから今も幸せなんです。できるならもっと一緒にいたかった。これからの未来を共に歩きたかったです。……もし…嫌じゃなきゃ…最期の時は一緒に…死んでください。』
その微笑みは、この壊れた世界であっても少しも色褪せることなく、鮮やかに輝き続けていた。
綺麗だ。素直にそう思った。
今こうしている間も、蠢く死者の群は確実に近づいてきている。壁の向こうでは呻き声と何かを叩く音が聞こえてくる。
そんな、精神が狂っても仕方ないこの状況で…彼女は優しく幸せそうに微笑んで見せた。
あぁ、やられた。
コイツを死なせるわけには行かない。コイツを残して死ぬわけにはいかない。
バールを握る手に自然と力が入る。
生きよう。
壊れたこの世界で…足掻き、這いつくばってでも…
生き抜いてやる。コイツと一緒に。
『…わかった…
最期の時は、一緒に死んでやるよ…。
…ただし!それは今じゃねぇ!!
年取って子や孫に囲まれた温かいベットの上でだ。
それまでは何が何でも生き残るぞ!』
俺は彼女の手を引き、立ち上がらせるとそのまま駆け出した。
さあ、足掻き切ってやりますか。
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