河田彰の場合

4/7
前へ
/9ページ
次へ
 どことなく座りが悪く、所在なさげにしている河田の背を中澤が叩いた。 「二人とも、こいつ後輩の河田。多分コレからちょいちょい連れてくるからヨロ」  唐突な紹介に河田が慌てて頭を下げると、二人は異口同音で「はじめまして」と挨拶してくれた。次いで、ポニーテールの少女が『羽月みはる』、サイドテールの少女が『羽月ちはる』と名乗ってくれる。二卵性の双子だそうだ。  その二人の間でいまだにもがいているミヤビに河田が目を向けると、藍が呆れたように、この人が屋敷の主であり、友崎雅と言う名前だということを教えてくれた。  屋敷の主と言うことは、少なくとも成人はしているのだろうか。風が吹けば飛ばされてしまいそうな外見からはまるっきりそうは見えない。  見た目の期待を裏切らず非力らしい雅は、それでもちはるとみはるの腕から逃れようともがいていた。どうやら、中澤から離れたがっているように見える。  もしかして仲が悪いのだろうか、と河田が首を傾げると、中澤は軽く笑いながら雅に近づいていく。 「ぎにゃー!」と、尻尾を踏まれた猫のような叫び声をあげて、雅はちはるの影に逃げた。 「おじ様っ! 変なもの持って来ないでっていつも言ってるのにっ!!」  半泣きの抗議にも、中澤はヘラリと笑うだけだ。 「いやー、もしかしたらと思ったけど、やっぱ当たりだったー?」  楽しげな彼の言葉に、雅がさらに威嚇の声を上げる。これが本当の猫であれば、今頃尻尾が逆立っていることだろう。  藍やちはるたちにとっては慣れたやり取りなのか、みな一様に呆れたような笑みを浮かべていた。ひとり、話についていけない河田だけ、目を白黒させる。  一体、この雅とやらと中澤の関係は何なのだろうか。『いつも』ということは、中澤はそれだけ頻繁にここに来ているのだろうか。苗字が違うので血縁とは考えにくいが、雅は中澤を『おじ様』と呼んでいた。と言うことはやはり血縁者なのだろうか。いやしかし彼の妹たちにはまだ子供はいなかったはず。いたとしても明らかに年齢の計算が合わない。それでは一体?  誰からも何の説明もされず、河田の思考はグルグル迷走していく。何から問えばいいのかすら、もはや分からない。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加