4人が本棚に入れています
本棚に追加
悩みに悩んで口から出た言葉は、河田も予想外のものだった。
「友崎さんは、中澤さんの甥御さんか何かですか?」
問いに、場が凍る。質問した本人ですら、言った瞬間ピシッと凍ってしまった。
止まった場の空気を破ったのは、至極楽しそうな中澤の笑い声だった。
「アッハッハッハッハ。河田君、違う違う。
俺とお嬢は、別に血の繋がりとかないから。ただ、お嬢の兄さんと俺が友達ってだけだよー」
「え……でも『おじ様』って……」
「ただのあだ名だよ、あーだー名ー」
ケラケラと笑う中澤に、まだいまいち納得はできないが言葉を引っ込める。それより気になるのは
「……お嬢?」
「あ、それもあだ名ね。別に、お嬢が本当にいいとこのお嬢様なわけじゃないよー。まぁ、ある意味名家っちゃー名家だけど」
「じゃなくて! 友崎さん、女性だったんですか?!」
河田の驚きをどう捉えたのか、一瞬にして笑いを引っ込め、中澤が憐みの視線を雅に向けた。
「……お嬢、ないないぺったん娘だもんな……」
『何が』とは言わない。
言わない、が、何より雄弁な視線に雅が「シャーッ!!」と猫のように威嚇の声を上げる。発言したのは中澤で、自分は何も言っていないはずなのだが、とばっちりで河田まで被害を受けた。
グルグルと野生の獣のような唸り声をあげ、前髪に隠れていても分かるほどの怒りの視線をこちらに向けてくる。
初対面から心証が最悪だと中澤に助けを求めるも、彼は呑気に笑うだけだ。これはダメだと、肩を落とす。
何とか心証を良くしようと視線を雅に向けると、彼女はちはるの影に隠れたまま真っ直ぐ中澤を指差した。
正確には、彼のポケットを。
「次持ってくる時は、絶対連絡入れてよね」
「分かってる分かってる」
「あと、罰として次はマル屋の生どら焼き買ってきて」
「お嬢はワガママだなァ」
そう言うが、中澤の笑顔が曇ることはない。のんびりとした動作で、彼はポケットから袋を取り出した。それは現場鑑識で使われているもので、つまりは今回の事件の証拠と言うことになる。
「勝手に持ってきたんですか?!」
思わず声を上げた河田を片手で制し、中澤は袋を雅に差し出した。中には、女性ものの指輪が入っている。
最初のコメントを投稿しよう!