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無言で渡そうとする中澤に、しかし雅は首を横に振った。触りたくもないとばかりに顔を歪める。
彼女の指が、ヒタリと袋を指した。
「河田君」
「は、はい」
「今からお嬢が言うこと、聞き漏らさず全部メモってね」
「はい?」
問い返すより先に、雅の淡々とした声があふれだした。
「茶髪セミロングの女性。年齢は二十代前半。右の口元にほくろがあるのが特徴的。たれ目。フチ無しの眼鏡。当日の格好は白い春物のセーターにカーディガン、マーメイドのデニム地のスカート、ヒールの低いパンプス、色はベージュ。鞄はショルダー、サイズは小さめ。仕事用じゃないね。色は黒。右手首にシルバーのブレスレットをつけてる。石は無し。
凶器は近くにあった瓦礫。衝動的な犯行。凶器は多分現場近くの水路に落としていってる。
犯人は元彼。これは別れた後ストーカー化したパターンだね。執拗に復縁を迫ってた模様。だけどヨリを戻すのに失敗して逆上。後ろから何度も打ち付けてる」
「男の特徴は?」
「二十代半ば。髪は黒で、今はあまり手入れされてない。肩のあたりまで伸び放題。髭も剃ってないみたいだね。身なりに気を回す余裕がなかったのかな。当日はTシャツにGジャン、Gパン。寝不足なのか酷い隈がある。左手の甲に大きな傷跡がある。何か事故でもあったのかな。ガイ者の元バイト先で、同じバイトとして働いてた。辞めたのはガイ者の方が先だったみたい。今もそこに勤めてるかまでは読めない」
「な、る、ほ、ど。
ガイ者の家、分かる?」
「正確な場所までは地図がないと分かんない。でも、現場近くなのは間違いないよ。そんなに歩いてないから」
「了解了解。コレで範囲が絞れるわ。
ちなみに、今彼女どこにいるか分かる?」
中澤の問いに、雅は静かに首を振った。
「メモした?」と手帳を覗きこまれ、河田は何度も頷く。
言われるがまま雅の言葉を書いていったが、これは一体何なのだろうか。
いや、本当はどこかで気付いている。この言葉の意味に。しかし、それと結びつけるには、あまりにも謎が多すぎた。非現実的すぎた。
何故、雅はこんなにも具体的に様々な特徴を挙げることができたのか。
この指輪は一体何なのか。
そして、中澤は彼女に何を見せたのか。
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