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急にスマホから振動が唸りだす。私はメールを見た。
『二十三年前の君へ』という件名と自分と同じ名前が差出人として表記されていた。私の年齢からすると相手は四十四歳になるのか。私はそこを指で触れた。
『本文を見てくれてありがとう。君は私のように苦しんで欲しくない。私は……』
そこで文字が途切れていた。
またスマホが唸りだす。
『ごめんね。しっかり内容書かなくて……。私は今、あるものに襲われている。あるものとはクローン人間だよ。ここは未来の話でそれで……』
彼がどういう立場にあってるのか、理解できなかった。
『詐欺か何かですか?』
こうメールを返信すると数秒で返事がきた。
『詐欺じゃないよ。そもそもお金の話とか言うつもりはない。私が言いたいのは未来の話だ。そしてやって欲しいことがある』
私は困惑しつつもメールを送る。
『危険なことはできませんのでご了承ください』
『分かってる。君の倉庫にあった野球道具を君の住んでいる家の近くにある木に埋めて欲しいんだ』
『それならできなくもないんですが……』
『野球バットもだぞ。では頼んだ。あぁ、そうだ。絶対に取り出すなよ。必ず未来に役立つから』
私は倉庫から野球道具と大きいスコップを取り出し近くの木に埋めた。
『今、埋めました』
返事がなかなか来ない。クローン人間に襲われて死んでしまったかと考えていた矢先にメールが来た。
『助かったありがとう。クローン人間は急な寒波現象により暴走し始めたんだ。君は氷河期っていう言葉を知ってるかな?今の時代、その現象が起こってるんだ。君も環境によって人生を奪われたくないなら今できることを考えな』
その後に件名が変わったメールが来た。
『メールメモリーゼロ、本文開時後差出全消去』
件名にはそう書かれていた。意味は分かっていたが本文を開いてみる。
『本当にありがとう』
その文字が目に映った瞬間、昨日友人に送ったメールがそこに表示された。バックボタンで戻ってみるが、未来からの自分のメールは残ってない。私が送ったのもだった。返信するためのメアドさえ残っていない。今できることか……。まずはそのことについて考えることにしよう。そう決断を下した日曜日の朝の出来事だった。
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