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夏の日差しはガラス越しといえども、失恋した身体には痛いくらいにまぶしい。
引き出しには0.5カラットのダイヤの指輪がかれこれ1週間は眠っている。これも痛い。
……けだるい。
「暑いですね、所長」
「夏だからな」
オフィスの大きな窓はガラスの壁と言っていい。早く日の昇る夏場は出勤時にはひさしの上に太陽は隠れてしまうけど、窓の向こうは駐車場で、日中はアスファルトの照り返しがひどい。私は引き出しを戻し、デスクに手を突いて立ち上がった。けだるさを打ち消したくてヒールでわざと音を立てながら窓辺に向かい、4つあるロールスクリーンを端から順に垂らしていった。
暗くなった室内に目が慣れてくるとオフィス全体が見えてくる。30畳はあろうかの無駄に広い空間にはスチールのデスクが4つ、身を寄せ合うようにくっついている。その島を見守るように大きな家具調のデスクが一つ、壁側に構えている。その高級そうなデスクには来年40になるという大男が座っている。
田上デザイン建築設計事務所、田上鎮(たがみまもる)。このオフィスの主だ。有名大学を出て大手ゼネコンに数年務めたあと退職し、このデザイン事務所を立ち上げた。脱サラして独立。お洒落でかつ機能的な設計をする彼はこのあたりでは引く手あまたの有名人である。
こじゃれたウェーブヘアは耳の上まで、きりりとした男らしい眉、二重瞼に鋭い視線を放つ黒い瞳、何かあればすぐに建設現場に向かう彼の肌は夏場でなくても小麦色だ。長袖の白いワイシャツはアームバンドでたくしあげられ、ごつい手首の骨は体育会系を連想させる。
簡単に言えば、大学時代にラグビーで鍛えた体を持つ1級建築士のマッチョなオッサン、だ。
「エアコン、温度下げますか?」
「榎本に任せる」
「じゃあ、このままで」
私はデスクに戻る。4つあるうちの3つの席にいる社員たちは皆、出払っている。1人は営業、2人は建築士だ。おのおのに担当のお客様のところで仕事をしている。真夏の建築現場にいるであろう他の社員のことを考えると、エアコンの温度を下げるのははばかられた。縁故で採用された私は何かにつけて甘やかされている。大きなデスクトップパソコンもミニチュアに見えてしまうほどの大男は、お前の親父さんに面目が立たん、と言っては私を甘やかす。
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