彼のそば

11/66

3258人が本棚に入れています
本棚に追加
/604ページ
不安な面持ちでただじっと松下の目を見ていると、不意に、松下の手が顔の前に伸びてきた。 ぷにっとほっぺたをつままれる。 松下の眼差しがいたずらっぽく笑う。 「―――大丈夫」 声にならない声が言っていた。 バレてないよ、おれ達のことは。 ようやく肩の力をぬくことができた。 頬をひっぱられたままの幸成は抗議の声をあげた。 「痛いってば」 手を離した松下は、優しい眼差しをみせながらも、 「おまえは気がちっちゃいなー」 と、癪に障ることを言う。 幸成はムッとして、それでも声を抑え気味に言った。 「おまえのために心配してんだろ」 なんでかな。 なんでおれ達、こんな風に普通に話してるんだろ。 頭の片隅で、ふと思った。 そういえば、今朝もだった。 SHR前、近づいて話しかけてきた松下を、幸成は不思議に思わずにはいられなかった。 いつもどおりの表情。態度。 距離なんてちっとも感じない。 ゆうべの今日なのに。
/604ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3258人が本棚に入れています
本棚に追加