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「随分久し振りだね」相手は言う。
「ああ、君の会社の、確か創立記念だったかな、その懇親会以来になる」
「何年前の話だ?」
「今年や去年ではないな」
「相変わらず、きさまは年齢がわからん」
「君ほどではないさ」
「世辞より嫌味に聞こえるが、まあ、それぐらい久し振りということだ」
「そうだな」
男は側を通り掛かった客室乗務員に飲み物を頼みながら問う。
「そうだ、君、知ってるか。昔、機内でよく乗り合わせていた係長君のこと」
「ああ、社長に登り詰めた彼か?」
「そうそう。つい先頃、亡くなったらしいぞ」
慎は目を丸くする。
「うそだろう」
「うそついてどうする」
「いや、ついこの間、品川か東京駅ですれ違ったところだから」
「二年も三年も前の話じゃないのか?」
「いや、先月……いや、先々月かもしれないが、まだそんなに経ってない」
「じゃあ、死ぬ直前だったんだろう」
「信じがたいな」
「心臓だか何かの血管が破裂したらしいぞ、あっという間だったという話だ」
「新聞にそれらしい告知はなかった。彼ほどの地位であれば載っても不思議はなかろうに」
「家族の意向で止めさせたらしい。いろいろあったようだな。ま、我らももう、若くないということさ。我らが出会った当時は、国内ですらプロペラ機が何度も給油して目的地に向かっていた。今は欧州までアンカレッジ経由でひとっ飛び。時代は変わったよ」
慎は眼鏡のつるに手をやってうなずいた。
「で、君の方はどうなの、相変わらずか」
「どう、とは?」
「いや、その……」相手の男は口ごもる。
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