昔々、どこかの山奥で。

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静止画のように誰も動かず、音のない世界。けれど、水音が静寂を壊した。 それにつられるようにまた、音が。 「ねぇ、…………何で動かないの?」 座り込んだ、十歳に届くかどうかくらいの幼い少女が目の前のソレに言う。 ちらちらと、空から真っ白いものが降ってくる。雪だ。雪は地面に触れると溶けて見えなくなった。 けれど、ソレに触れると真っ白いままその上に居座っていた。 雪は少女にも降り注ぐ。 体温を奪っていく結晶たちを気にせず少女は再度問いかけた。 「何で動かないの?…動いてよ、お願いだから動いてよ……っ!」 悲痛な声で少女は祈る。 頭によぎる可能性が事実でないことを。 「 」 少女の声は雪に奪われて消える。 雪は知らん顔して降り積もる。 地面に、少女に。 そして、ソレーー少女よりも幼い、女の死体に。 ぱっくりと口を開け、赤に染まった地面の上に横たわり、目は見開かれ、首はあり得ない方向に曲がっている。 真っ白かったろう可愛らしいワンピースは泥と血に塗れ、見る影もない。 完全無欠に死んでいて、どうしようもなく手遅れだった。 それでも少女の思考回路はそれを認めない。認識していながら理解していない。 理解しようとしていない。 彼女が死んだことを。 彼女が自分の妹であることを。 彼女を殺したのは、自分であることを。 「起きてよ、 」
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