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「ははは……。そうかもしれませんね」
「――浦来。私に対してソレは止めろと言ったはずだ」
だが、浦来が浮べた『愛想笑い』に、彼女は激しく反応した。
ギロリと少年を睨みつけ、静かに、しかし有無を言わさぬ調子でそれを咎める。
優子は少年の営業スマイルのようなその仕草が好きではなかった。
「え? ああ、すみません、つい。……それより、依頼は済んだんですか?」
いきなり怒気を孕んだ彼女に特に怯むことも無く、どころかほとんど気にも留めずに浦来は応える。
謝罪にも、誠意がこもっていると思う者はあまりいないだろう。
そしてどうでもいいかのように話を切り替えた。
優子も怒るのを通り越してしまったのか、それともこのやりとりすらいつもの事なのか、その表情から窺えるのは呆ればかりだ。
「ああ、滞りなく、な」
状況は見ていて分かっているだろうに、と心の中で思いつつも、彼女は返答する。
「それは上々。ところで……、その腕に抱えているのは……?」
別れるとき、つまり潜入するときは持っていなかった物が、帰ってきたら増えていたのだから、疑問に思うのは彼にとって当然だった。
本当はから最初から気が付いていた。
切り出すことを待ったのは、単に話すタイミングを窺っていたからだ。
ひと働きしてきた優子を労うのが先だと、彼なりに空気を読んでのことだ。
「ああ、これか。事務所に持って帰る」
彼女はまるで今まで忘れていたかのように、事も無げに言った。
「あ、はい。……って、女の子? この組織、誘拐もやってたのか」
浦来は業務連絡に対して反射的に応えるが、その姿を改めて確認して言った。
見たところ普通の、いや可愛い女の子。
組織の関係者ではないと思った彼は、そうなれば相手は犯罪組織。
誘拐されたのだろうと踏んだ。
少女は気を失っているらしく、優子の腕に抱えられながらも脱力しきっている。
「誘拐? ……ああ、そういえば最近人身売買にも手を出したとかいう情報もあったかもな」
と、優子は質問の答えにはならない台詞で応えた。
腕に抱えた少女を浦来に渡し、自分は座席下から二つ目のヘルメットを取り出した。
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