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「とことんまでやってたんですね……そんなことより、このバイク中型ですから、三人乗るのはちょっと無理なんですけど」
浦来の忠告の横目に、彼女はもう一つの、浦来の使用するはずのヘルメットにも手を伸ばした。
「今さら法律とか気にしてたのか、お前」
これが彼をこちらの世界に引き込んだ張本人の台詞である。
「依頼は終わったんですから、気にしますよ。というか法律云々以前に、物理的に無理が……」
依頼中か否か。
それが彼の中での切り替え、けじめをつけるポイントだった。
そして、これから公道を走るバイクに三人乗るというのは、少々無謀だ。
ましてや内一人が気を失っているとなればなおさらだろう。
「じゃあ、お前が歩け」
優子は事も無げに言ってのけた。
「え? あ、あはは……。優子さんったら、冗談きついなあ。ここから事務所まで優に二十㎞はありますよ」
彼は引きつった笑みを浮べた。彼女の言葉が冗談に思えなかったからだ。
「日が昇る頃には着くだろう。問題ない」
そういう優子は手に取っていた、本来浦来が使うはずのヘルメットを少女に被せる。
本気だ。
「……え?」
彼には聞こえなかったフリをして、なんとか前言を撤回してもらうしかなかった。
聞き間違えたのだと思いたかった。
「というわけで、ホラ」
しかし彼女は浦来の言葉を軽く流すと、彼に手を差し出す。
「ホラって、……えっと」
やや唐突な行動に、彼には意図を量りかねた。
何かを要求されているだろう事は分かるが、それがなんなのか考えるのに、幾ばくかの時間が必要だった。
「鍵だ、早くよこせ」
「…………マジですか?」
上司からの理不尽な要求に、目を丸くする浦来。
しかしよくよく考えてみたら、結局歩くのは自分か優子のどちらかで、そうなるとどっちが貧乏くじを引く羽目になるのかは、火を見るより明らかだった。
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