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『状況は!?』
壁一面に設置されたモニターを前に、語気を荒げる男。
スーツ姿に銀のフレームの眼鏡が自分は出来る男だと主張していた。
男は三十そこそこで現場の指揮を任されている有望株である。
部下からは『若頭』と呼ばれ、常に冷静に物事を見極めることが出来る彼は、周りからの信頼も厚い。
しかし、今はそのような体裁などに構っていられなかった。
『し、侵入者、制圧できません!』
対して答えるのはオペレーターの男。
四台のモニターと二台のパソコンを前に奮闘しているが、既に急転する事態に対応しきれていなかった。
その原因は一つ。侵入者である。
ここはとある波止場に停泊しているタンカー。しかしその内情は全くの別物だった。
このタンカーには、銃や麻薬の密売を主としている、とあるフロント企業の支社が入っている。
もちろん書類上の会社は別の、地上にあるが、そこにいるのはせいぜい電話番くらい。実質的な動きは全てここが握っている。
二百人からいる構成員を警備に当らせ、百台以上の赤外線機能付き監視カメラに熱探知センサー、侵入者撃退用設置式機銃を始めとした、いわば最新鋭と呼ばれるセキュリティを備えていた。
しかしそれでも、侵入者は止まらなかった。
カメラを破壊され、銃で武装しているはずの構成員を悉く制圧され、厳重であるはずの警備を難なく突破されている。
『全隔壁を閉鎖しろ!』
オペレータルームから必死になって指示を出し、何とか事態を収拾しようとしているが、もはや空回りし始めているのが見て取れる。
『もうやってます!』
『なら何故突破されてるんだ!』
『わ、分かりません!』
『役立たずが……! おい警備! 一体なにやってるんだ! 殺しても構わん! さっさと制圧しろ!』
男は通信を開いて現場の警備に呼びかける。通信相手はまさに今侵入者を迎え撃っているところだ。
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