第一章

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 リリィはいつからいたのか、既に浦来の斜め後ろを歩いている。  そしてそのまま校門を出るまで、三人は特に口を開かなかった。  浦来は、リリィは用がなければこちらに話しかけたりしないだろう、と推測していた。  自分たちの方は、沈黙が特に苦になる訳でもない。  別段おかしな状態じゃない、当のリリィがいなければ。  由夢が少女の存在に気づいていないということはないはず。   しかし彼女の性格上、このままあからさまな無視を決め込むとも考えにくい。  坂を下り始めたところで、そろそろだろうなと思い、心の準備を始めた。  由夢が軽く息を吸い込んだのを感じて、軽く身構える。 「ところで、リリィさん、だっけ?」  その言葉は浦来の後ろを歩く少女に向けられた。  同じクラスであるので、名前は聞いているのだろう。  含む所などない、極めて明るい声音だ。  彼女の存在を訝しむどころか、これから仲良くしたいという心情が推し量れるものだった。 「はい。何のご用でしょうか?」  相変わらず機械的な声。  彼女にとっては他意のない――他意など挿むはずもない言葉だ。  だが浦来からしても、その丁寧すぎる言い回しは一周して邪険な返答に感じた。 「え? う~ん、特に用って程でもないんだけど……」  話しかけたはずの由夢が繋ぐ言葉に困る。 「そうですか」  もはや『これ以上会話をするつもりはありません』とでも聞こえてきそうなくらい、無機質な声だ。  由夢は気まずそうに頬をかく。  浦来の方も、これはよくないと思った。  しかしもう少し人当たりを良くして、と言って、リリィは対応できるのだろうか。  自分がフォローしていく必要があるかもしれない。  また一つ気苦労が増えたことを感じて、二人に気付かれないよう小さくため息をついた。
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