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リリィはいつからいたのか、既に浦来の斜め後ろを歩いている。
そしてそのまま校門を出るまで、三人は特に口を開かなかった。
浦来は、リリィは用がなければこちらに話しかけたりしないだろう、と推測していた。
自分たちの方は、沈黙が特に苦になる訳でもない。
別段おかしな状態じゃない、当のリリィがいなければ。
由夢が少女の存在に気づいていないということはないはず。
しかし彼女の性格上、このままあからさまな無視を決め込むとも考えにくい。
坂を下り始めたところで、そろそろだろうなと思い、心の準備を始めた。
由夢が軽く息を吸い込んだのを感じて、軽く身構える。
「ところで、リリィさん、だっけ?」
その言葉は浦来の後ろを歩く少女に向けられた。
同じクラスであるので、名前は聞いているのだろう。
含む所などない、極めて明るい声音だ。
彼女の存在を訝しむどころか、これから仲良くしたいという心情が推し量れるものだった。
「はい。何のご用でしょうか?」
相変わらず機械的な声。
彼女にとっては他意のない――他意など挿むはずもない言葉だ。
だが浦来からしても、その丁寧すぎる言い回しは一周して邪険な返答に感じた。
「え? う~ん、特に用って程でもないんだけど……」
話しかけたはずの由夢が繋ぐ言葉に困る。
「そうですか」
もはや『これ以上会話をするつもりはありません』とでも聞こえてきそうなくらい、無機質な声だ。
由夢は気まずそうに頬をかく。
浦来の方も、これはよくないと思った。
しかしもう少し人当たりを良くして、と言って、リリィは対応できるのだろうか。
自分がフォローしていく必要があるかもしれない。
また一つ気苦労が増えたことを感じて、二人に気付かれないよう小さくため息をついた。
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