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本人を目の前に散々なことを言っていた由夢に、罪悪感が無いわけではなかった。
今までの自分の言葉は遠まわしなリリィに対する責め、とも取れる。
「……ごめんなさい、リリィさん」
由夢は深く頭を下げる。
「いえ、構いません」
そしてこの時ばかりはリリィの起伏のない台詞ゆえの説得力があった。
言葉通り、リリィは全く気にしていないだろう。
そもそも彼女に傷つく心などありはしない。
ともすれば突き放したともとれる言い方だが、今回は由夢の方もめげなかった。
「色々言った後で虫がいいかもしれないけど、良かったらこれから仲良くしてくれたらって、思うんだけど」
リリィに関しては全面的に非がある彼女としては、あまり強くは押せない。
「了解しました」
しかし少女はそんな心中などどこ吹く風で即答した。
「うんっ、ありがとう」
今日一番の笑顔を見せて、由夢は「よろしく」と握手を求めた。
一拍の間――本来握手は今回の護衛に必要のない動作とプログラムされているため、その可否の判断、および力の加減を処理するためのラグ――の後、リリィはそれに応えた。
由夢は手を離して、そこがちょうど坂を下りた所だと気付いた。
「じゃあ、また来週」
言うが早いか、停めている自分の自転車の元へ向かう。
「一緒に帰ろうかとも思ってけど、それはまた今度ね。……私がいたら仕事の邪魔だろうし」
と、戻ってきたところで浦来に嫌味を残すことも忘れない。
「…………」
言葉が詰まる浦来を尻目に、由夢は自転車に跨って走り去った。
「じゃあねー!」
角を曲がるところで一旦止まり、大きく手を振る。察するに相手は浦来ではなくリリィなのだろう。少年は応えず、見送るに留まった。
「……はあ」
由夢が見えなくなってから、浦来は心労から大きなため息をつく。
昨日から数えて何度目だろうと考えて、しかし数えるのはやめておいた。
隣に立つリリィは、由夢に興味を抱いてはいなかった。
辺りを見渡しているのは、周囲に危険がないか探しているのか。
そもそも、彼女が何かに関心を持つことなどないだろう。
少女の心情が分かって、心情などありもしないことが分かって、少年はもう一度息を吐いた。
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