42人が本棚に入れています
本棚に追加
タンカーのどこに積まれのか分からないF-3381をおびき出す為に、警備をわざわざ正面突破して見せ、焦ったこちらが奥の手として持ち出したところで、あらかじめ掌握していたネットワークを使って停止し、傷つけるどころか相対することもなく奪取に成功した。
その鮮やかな手際に、男は敵ながら感嘆さえ覚えるが、しかしすぐに気持ちを切り替え、再び行方が分からなくなった侵入者を探すよう命令する。
装置の特性から、データを吸い出すだけではなく、その物ごと持ち出しているだろう、と男は考えた。
だが。
『そ、それが……』
『ああもう! 今度は一体なんなんだ!?』
自分の想定通りにならな過ぎて、男はもはや呆れさえ感じていた。
『……け、警備全てとの連絡が、取れません』
『回線も切られたのか!?』
『い、いえ、繋がりは、します』
『ってことは、まさか……』
二百人からいる構成員、全てと連絡が取れない。繋がるのに、相手はそれに出ない。
それはつまり、
『か、完全に制圧されました。あとは……ここだけです』
いくら数が減らされていたとはいえ、それでも百人以上いた構成員たちをたった一人で瞬く間に無力化する相手の実力に、もはや対応策など考えようがなかった。
事態がまだ終わっていないのならば、諦観するしかない。
男は絶望した。
『――お前がここの頭か?』
すると男の真後ろから声が聞こえた。
静かに、しかし耳にはしっかりと残る、女の声が。
『!? だ、誰だ!』
相手が声を発するまで存在にすら気がつけなかった。
そのことが、もはや精神的に限界に来ている男を、更に動揺させた。
『おっと、動くなよ。自分の脳味噌を見たくはないだろう?』
後頭部に当るゴリ、という固い感触に、男は覚えがあった。自らも扱ったことのあるものだからだ。
銃口が、今自分に向けられている。
そのことに気付けた男は振り向こうとした動きを止める。
横目でオペレーターに望み薄な希望を向けるが、ある意味予想通り、彼は既にキーボードの上に突っ伏して倒れていた。
最初のコメントを投稿しよう!