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「うわあ……。今日はまた、一段とキレてるなあ」
偽造タンカーが泊まる波止場には、一人佇む少年の姿があった。
免許を取ってさっそく買った真新しいバイクに腰を掛け、右手には携帯端末を持っている。
端末から流れる無線とハッキングした監視カメラの映像越しに事態の一部始終を見ていた彼は、そう一言感想を漏らした。
特に短くはないが、深夜の港の潮風になびくくらいには長い、クセも無い黒髪。
秋になって風も冷たくなりだしたためか、単にバイクに乗っていたからか、デニムパンツにファー付きの厚手のジャケットを着ていた。
顔つきにはまだ幼さが僅かにあり、まだ十代の様相を見せる。
普通身の回りではそうそう起こりそうもない事態を目にしながら、彼は特に気に留めた様子もなく、むしろ退屈そうに欠伸を一つ。
「あ、また銃声だ。これで終わりかな? えーと、今回の時間は……九分五十六秒。うわ、十分切ってる」
左腕のデジタル式の腕時計を見ながらそんなことを言う。彼の中では既に習慣になっていることだった。
どうやら今回は、いいタイムが出たらしい。
事態を見届けた少年は腰を上げると、帰る準備をするのだろう、ハンドルに掛けたヘルメットに手を伸ばす。
しかし、一発の銃声が、彼の動きを止めた。
少年が掴もうとした直前に弾がかすめ、ヘルメットは火花と共に揺れる。
弾が飛んできた方向を向くと、やや離れた位置に、拳銃を持った男が数人。
男たちは黒スーツを身に纏ってはいるが、実際は偽造タンカーの外の警備をしていた下っ端構成員、すなわちチンピラだ。
少年はおそらく、侵入者の仲間だと思われたのだろう。
そしてそれは、正解だ。
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