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「新堂ミカさん。どうか貴方に人を殺してほしいのです」
病室のベッドで仰向けの状態にある私は、目と鼻の先にいる真っ白いコートの男の声を聴いても正確なリファレンスを返すことができなかった。
私の他、誰もいなかった個室に突然降って湧いたその男は、その突拍子のなさに負けないほど突拍子のないところに立っていたからだ。
天上。
不必要で無愛想なほど白く塗られたその天上に、その男は逆さまに立っていた。
「…、…!……!」
口を動かす。
だけど声は鳴らない。
不格好な嗚咽が口の隅から泡と共にあふれ出るだけだった。
空気がつまり、喉が軋む。
呼吸ができない。
視界が霞み、四肢が震える。
まともな状態に戻ろうとしても、その動作が思考と相反する結果となり、無様にもだえる結果にしかならなかった。
「あぁ、失礼しました。驚かせてしまったようで」
そう言うと、男は指をパチンッと鳴らした。
途端、さっきまで続いていた苦痛が突然終わり、まるで嘘だったかのように身体が楽になった。心臓に右手を置くと、鼓動は正常に緩やかな速度で響いていた。
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