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……ありえない。
ついさっきまで狂っていた心臓が、何事もなかったかのように平然と動き続けている。
「先ほど重要な手術を終えた貴方に失礼しました。ですが、今の状態ならまともに話すことができるでしょう」
男の手が私に伸び、私の口を覆っていた人工呼吸器を取り外した。それが無くなっても口周りの違和感が残るだけで、私は呼吸をし続けることができた。
……ならもしかして。
そう思って右手に力を込め、身体を起こそうとした。しかし入れた先から力は虚しくベッドへと吸収され、結局起き上がることはできなかった。
「説明しますが、これはあくまで限定的な処置です。ですので、肉体の衰弱まで良好にすることはできません。呼吸器官と確認の右手だけ。それもごく限定的な、です」
天井に立つ逆さまの男を睨み付け、当然の疑問を聞いた。
「あなた……、何者?」
か細く、立ち消えそうな声だったが、声が出た。
まともな言葉を発せた。ただそれだけなのに大きな感動を覚える。
か細い声だったが、誰もいないシンとした病室では十分な音量だったらしく、男にも聞こえたらしい。
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