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「私が何者でも構いませんが、強いて言えば天使が一番近いかもしれません」
「ずいぶんご自身を高く評しているみたい。天使が人を殺してほしいなんて頼むかしら」
「天使は常に、物事の天秤の前に立ちます。その天秤が一方より重いと判断したものを選び、優先するだけです」
「そう、その優先すべきことが、こんな私に人殺しを頼むことなんだ。たいそう正確な天秤ですこと」
得体のしれない、この男に?まれないように、できる限り強気な発言を心掛けた。
けれど私の虚勢なんて気にも留めないように、先ほどと変わらぬ態度で男は話し始める。
「そう。私どもの天秤は正確なのです。原始の過去から刹那の現在、そして彼方の未来に至るまでを内包し、万物の観点から是となる事柄を示す、絶対的な正確なのです」
「つまり私はその天秤様に軽いものとされて、人殺しの汚名を着せられるってことですか」
破られた虚勢であっても、張り続けようと強がった言葉づかいを続ける。虚しさと頼りなさが心の隅から溢れ出していく感覚が気持ちわるい。
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