第一章 未必の故意

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 加奈は紅茶を放り出し、びしょ濡れの忠興に駆け寄った。  あれだけ会わないと宣言していたくせに、加奈を前にした忠興は、この上なく嬉しそうだった。 「やーんっ。どうしたの、袴田っ」 「来てくれたんですねっ、忠興さんっ」 「お前まで懐くなっ」  しっ、し、と志免は足で払われる。 「なにしに来やがった、袴田!」  突然の忠興の乱入に、噴いた紅茶を拭いながら、内藤は立ち上がる。 「こんな真っ昼間から加奈に会いにきやがって!」 「夜ならいいのか?」  そう冷静に問う忠興に、内藤は黙る。 「忠興さん、さっきの―」  言いかけた志免を、忠興は睨んだ。 「さっき? さっき、どうかしたの?」 「どうもしないよ、加奈」 と別人のような優しい目で、タオルを持ってきた加奈の瞳を覗き込む。  ああ、ばかばかしい。やってられないと思いながらも、うっとりと微笑む加奈の幸せそうな顔に、ぐっと堪えた。  だが、堪えられない人間もいた。
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