第一章 未必の故意

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「特にないな」 「嘘つけ。ありすぎてわからねえんだろうが」 「トラブル抱えてんのは、シンジケートだ。俺個人じゃない」 「そうですね。その辺、忠興さん立ち回りうまいですもんね」 と言いながら壱子はもう、左手のパソコンルームに入ろうとする。 「偉く協力的だな、壱子。料金の設定もなしか」 「別に。忠興さんいつも払いがいいから」  微妙に赤くなって言う壱子を、 「お前、実は忠興が好きなんじゃないのか」 とからかった内藤は、現実には有りえないくらいの冷たい眼で見られ、そのままの姿勢で固まる。  懲りたら? と加奈が呟いた。  忠興ならずとも、この男に彼を狙うほどの度胸も器もないのはわかる。  だが、 「忠興さんに気があったのは、里美でしょ」  ドアが閉まる直前の、壱子の捨て台詞に、加奈まで連鎖して固まった。  ぱたん、とパソコンルームの戸が閉まる。
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