第一章 未必の故意

28/159
前へ
/295ページ
次へ
  隣に行くと、まだ騒いではいたが。  傍目には、加奈が忠興に甘えているようにしか見えなかった。  たまにしか会えないから、この二人、こうもベタベタなのか。  しびれを切らしたように内藤が机を叩いて立ち上がる。 「早く帰れ、忠興っ。  カニが腐るぞっ!」  なんでカニ? と加奈が眉をひそめた。  だが、内藤は、 「密輸といえば、カニだろうっ」 と言い切る。 「扱ってんのは美術品だ。それに、今俺が雇われてるのはマフィアじゃないぞ」  今、忠興が居るのは、裏にも顔のきく美術品ブローカーのようだった。  それも軽い契約の護衛程度。  意外に堅実な男だった。  恐らく加奈に迷惑がかからないようにだろう。
/295ページ

最初のコメントを投稿しよう!

592人が本棚に入れています
本棚に追加