第一章 未必の故意

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 滅多に会えない忠興を追い返され―  というか、自分で帰ったのだが、加奈は拗ねていた。  椅子の下で、ぷらぷら足を揺らし、机にぺったりと顔を寄せている。 「あー、ひまひま」 「所長、仕事はあるでしょ?」  残務整理とか、という壱子に、だってさーあ、といじけて見せる。 「忠興さんはもう日本を出られるんでしょう?  だったら、とりあえずは問題はない気がしますね」 とプリントアウトしたものを見ながら壱子は言う。 「そんなのわかんないわ。例えば、同じ組織の誰かとかだったら」 「それはないですね。プロなら忠興さんの腕を知っているはずです。  今、特にそっちの方でトラブルはないようですし、迂闊にあの人に手を出しゃしないでしょう。  トラブルがないというのは、不本意ですが、今、真田に確かめたので間違いないと思います」  なに? と加奈は手をついたまま、顔を上げる。 「真田まだそんなことに首突っ込んでんの?」
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