第一章 未必の故意

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  「あらそう。まあ調べといてあげるけど?」  そっけなく言って、里美は電話を切った。  誰だ? と珍しく家に居た聡が顔を上げる。 「忠興よ」  ソファから振り返っていた聡は一瞬、目をしばたいた。 「あいつ、帰ってたのか」  里美はソファに近づくと、背もたれに腰掛ける。 「もちろん、加奈のところに寄ったんでしょうね」  聡は手にしていた本を膝に置き、渋い顔をした。 「忠興か。  まあ、加奈の相手としては悪くはないが―」  少し面白くなさそうだが、そんなことを言う聡に、あら、と里美は意外な顔をする。 「あんなヤクザ崩れの男なのに?」 「あいつはいずれまともになるよ。頭のいい男だし。なにより、加奈にベタ惚れだ」  そういう意味では誰より条件を満たしているといっていい。
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