第一章 未必の故意

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「内藤だって、ベタベタじゃない」  あいつはなあ、と聡は唸る。  些か頼りないのだろう。  腰かけていたソファの背から腰を浮かしながら、里美は言う。 「祐馬だって、クールそうに見せかけて、加奈加奈加奈って」 「祐馬はちょっとなあ。騒ぎに巻き込みそうだから」  真剣に悩む聡の首に、里美は後ろから腕を回した。  なんだ? と振り返る。 「ううん。なんかそうしてると、普通の妹思いの兄みたいよ」 「馬鹿を言うな。俺はもともと、ただの妹思いの兄だ」 「貴方の初恋は実の妹の加奈だって、お義母様に伺ったけど?」  聡は黙り込む。  里美は笑って、聡の後ろ頭に額をぶつけた。 「……今はただの妹思いの兄だ」 「そうね。―そうあってね」  繰り返す夫にそう微笑み、身体を起こしかけた里美は、いたっ、と声を上げる。
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