592人が本棚に入れています
本棚に追加
「内藤だって、ベタベタじゃない」
あいつはなあ、と聡は唸る。
些か頼りないのだろう。
腰かけていたソファの背から腰を浮かしながら、里美は言う。
「祐馬だって、クールそうに見せかけて、加奈加奈加奈って」
「祐馬はちょっとなあ。騒ぎに巻き込みそうだから」
真剣に悩む聡の首に、里美は後ろから腕を回した。
なんだ? と振り返る。
「ううん。なんかそうしてると、普通の妹思いの兄みたいよ」
「馬鹿を言うな。俺はもともと、ただの妹思いの兄だ」
「貴方の初恋は実の妹の加奈だって、お義母様に伺ったけど?」
聡は黙り込む。
里美は笑って、聡の後ろ頭に額をぶつけた。
「……今はただの妹思いの兄だ」
「そうね。―そうあってね」
繰り返す夫にそう微笑み、身体を起こしかけた里美は、いたっ、と声を上げる。
最初のコメントを投稿しよう!