第一章 未必の故意

34/159
前へ
/295ページ
次へ
  「所長、熊みたいに歩き回らないでくれますか?」  意味もなく新聞ラックの周りを歩き回っていた加奈に、キッチンから出てきた壱子が眉をひそめる。  ちょうど目の前に居て邪魔だったのだろう。 「だってえ、だんだん心配になってきちゃったんだもん。大丈夫かしら? 袴田」 「あの男を殺せる人間なんて滅多に居ません。  居るとしても、相当金を積まなきゃ動かない連中です。  今のとこ、袴田忠興にそんな価値はありません」 「壱子~っ」  それはそれでどうっ!? と睨む加奈に溜息をつき、壱子は言った。 「そんなに心配なら、里美に訊いてみたらどうですか? 真田よりかは確かですよ。  でも、ひとつ、私見を言わせていただいてよろしいですか?  どうも私、今回の一件、本気ではないような気がするんです」
/295ページ

最初のコメントを投稿しよう!

592人が本棚に入れています
本棚に追加