第一章 未必の故意

35/159
前へ
/295ページ
次へ
「え?」 「あの袴田忠興を殺そうとしたにしては、やることがしょぼ過ぎます。  まあ、他にも何かあったようですが―  鉄骨の一件だって、せいぜい、側に居た志免くんが犠牲になるくらいのものです」 「あのー、壱子さん?」  遠慮がちに一人がけの椅子に座り、応接セットでワープロを打っていた志免が振り返る。 「言っときますけど、僕が助けたんですよ? 忠興さん」 「忠興さんが気づかなかったのは、相手に殺気がなかったからじゃないかと思うんです」 「ただの脅しってこと?」 「まあ。死んでもいいけど、死ななくてもいいか、くらいの」  たまたま鉄骨がいい位置にいっちゃったんじゃないですか? と素っ気無く言う壱子に、 「また、たまたまいい位置にいっちゃったらどうすんのよ~っ」 と加奈がわめく。
/295ページ

最初のコメントを投稿しよう!

592人が本棚に入れています
本棚に追加