第一章 未必の故意

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 忠興は答えない。雨のせいではなく、寡黙な人なのだろうか。 「行かないんですか?  あ、もしかして、内藤さんが居るからですか?  じゃあ、後で加奈さんと会われるんですね」 「―いや、しばらく加奈には会わない」  志免は足を止めそうになった。だが、止めてしまっては置いていかれることは確実だった。 「どうしてですか!?  あんまり日本にはいらっしゃらないんでしょう?  会わないで帰っちゃったら、加奈さんが寂しがるじゃないですか。  加奈さん、今、忠興さんが日本に居ること、知ってるんですか?」  ようやく口を開いた忠興は、溜息をついて言った。 「よくしゃべるな、お前」
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