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朝起きて、歯を磨いて、顔を洗って、髭を剃って、髪を整える。
これがごく一般的な起床後のルーティンだが、笠原健一の場合は一つ多い。
朝起きたら直ぐにパソコンの電源を入れておく。
そして、洗面所でのルーティンを終えた後、パンを頬張りながらネットでニュースを見て、ついでにメールを見る。
会社のパソコンはシステム部門のセキュリティ管理が厳しく、プライベートのメールのやり取りなどしたら即、呼び出しが掛かり尋問される。
実際は尋問などされず、口頭注意のみだが、偉そうに呼びつけるシステム部門への揶揄として、皆は隠語的に使っている。
そんな訳で、健一はプライベートのメールは家で見る。
忙しい朝で無く帰宅後と思うのだが、ほぼ毎日いい気持になって帰ってくるので、翌日には忘れている可能性が高い。よって朝にした。
メル友が多くいる訳でも無く、知人からのメールはたまにある程度で、ほとんどが広告メールだが、昔の彼女からの突然メールが一度あってワクワクしてからの変な期待感が、毎日まめにメールを見る男にした。間違いメールだったのだが。
今日、健一に変なメールが来た。
送信者の名前が健一の名前になっている。
他のパソコンやスマホから自分にメールを送ってなどいない。悪戯メールか。
わざわざ自分の名前のアカウントを取って、無名の自分に悪戯メールを送る暇人もいないだろうと健一は思った。新手の詐欺か。
メールを開くのは危険であると判断し無視しようと思ったが、メールタイトルが眼に入り、その内容が気になって仕方がなくなった。
今は時間が無い。
今日は寄り道をせず、帰宅してからじっくり考えることにして健一は家を出た。
健一は帰宅して夕食もそこそこに、しっかりと焼酎のソーダ割りのカップを持って、パソコンを開いた。
[メールタイトル]
お前の五十年後の健一だ。詰まらないお前の人生を変えてやる。麗子の夢を見ては切なくて泣いている、いじいじしたお前へ。
五十年後の自分からのメールなど信じられる訳が無いと健一は思った。
だが、しょっちゅう麗子の夢を見て、眼が覚めてから切なくて涙ぐむのも事実だ。
別れてから一年も経つのに、未だに忘れられない女々しい自分。
そんなこと恥ずかしくて誰にも言える訳が無い。
だから知っている奴は誰もいない。当てずっぽうか。
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