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「こんなことって本当にあるのか」
[お前の眼の前の健一が証明だ]
メールを開き直さなくても、画面はそのままで文字が表示さる。チャットの感覚だ。
「メールに書いてあったことは本当なのか?」
健一は未来の健一に言ってから、パソコンを見る。
[事実だ。俺は、いやお前は。ややこしいから名前の健一で統一する。健一は麗子の人生を滅茶苦茶にした]
「健一のせいって言われたって、そんな先のことなど分る筈が無いだろう」
[そう思っていたよ。麗子の死を知るまではな。死を知ったら気持ちが変わる]
「麗子が死んだって知って辛いけど、全部俺のせいだなんて思わないぞ。辰夫って奴に引っ掛かったんだって、男を見る眼が無かったからだ」
[中途半端な今のお前ならそう思うわな。今から二年後に麗子は死ぬ。これからもずうっと麗子への想いを引き摺って、逢いたくても連絡も取れず、自分から別れたことを後悔して、そんな気持ちがくすぶり続けていた時に知った死だ。その喪失感は今のお前に理解は出来まい。麗子に対する想いの深さが違うんだよ]
「そんなに麗子のことを想うようになるのか」
[そうだ]
「麗子は何故警察に逃げ込まなかったんだ?」
[そうしてくれたら良かったのにな。警察に行ったらソープで働いていたことが親に知られる。親思いの優しい麗子は、親に悲しい思いをさせたく無かったんだろうな。もっと悲しい思いををさせてしまったのにな]
健一の頭に麗子のこぼれるような笑顔浮かんだ。急に悲しさが込み上げ涙が頬を伝った。
[麗子はまだ死んでいない。これから麗子を取り戻しに行く。覚悟を決めろ]
「覚悟って何だ」
[麗子を奪うんだぞ。辰夫に取って、麗子は自分の女で大切な金づるだ。素直に渡す訳が無い。辰夫とのバトルだ]
「あんたは俺だから、俺は喧嘩が弱いの知ってるだろ。それに麗子だって一年も辰夫と一緒にいりゃ情が移って、言うことを聞かないかも知れないじゃないか」
[だから覚悟を決まろって言ってるんだ。何発か殴られる覚悟。お前が一方的に殴られれば、辰夫は傷害罪だ。麗子が逆らっても頬にビンタを食らわしてでも連れて来る覚悟。麗子を助けたいって気持ちになったんだろ?]
「そうだけど」
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