未来の自分との出会い

6/10
前へ
/10ページ
次へ
[お前に怖い思いはさせるが、痛い思いはさせない。冥界に棲む俺の力を信じろ。これからはお前の携帯のメールで話をする。スマホを忘れるな。俺についてこい] 未来の健一は、ドアをすり抜けて出て行った。 「待てよ。俺ってこんなせっかちだったっけ」 健一は慌てて部屋を出た。 健一の車で、未来の健一からのスマホのメールの指示通りに、大崎の二建てのアパートに来た。 麗子達はこのアパートの二階の端の部屋に住んでいて、今二人とも部屋にいると言う。 ダブル健一はその部屋のドアの前に立った。 健一は緊張で顔が強張って来た。 [覚悟はいいな。ドアをノックしろ] 未来の健一がスマホで言った。健一は自分を鼓舞するように強く頷いた。 ドアを二回叩いた。中から女の声がした。 「どちら様ですか?」 健一はドラマに良くあるシーンの真似をした。 「宅急便です」 ドアが開いた。そこに逢いたくて堪らなかった麗子が立っていた。 抱き締めたい衝動を必死で抑えた。 麗子は驚愕の表情で健一を見た。 見開いた瞳が揺れている。 [麗子を無視して中へ入れ] 健一はスマホを見た。スマホが言っている。 健一は麗子を押し退けて中へ入った。 居間にいた辰夫と眼が合った。 「誰だ、てめえは。人の家に何、勝手に入って来てるんだよ」 辰夫が立ち上がって健一の胸倉を掴んだ。 健一は気が弱い。 殴られる恐怖で身がすくんだ。逃げ出す訳にもいかない。 「助けてくれ」 健一は未来の健一を見て、声にならぬようにゆっくりと、口だけ動かして、心の中では思いっきり叫んだ。 その刹那、辰夫の身体は空中に浮かび上がり、一旦天井に押し付けられ、それから後ろの壁まで吹っ飛び、壁で背中をしたたか打った。 「何をするんですか」 麗子は健一をなじり、辰夫の側にに走り寄り介抱しようとした。 辰夫は痛みに呻きながら、気味悪そうに健一を睨んでいる。 「手も触れずに俺を吹っ飛ばしやがった。てめえは何者だ。化け物か。俺に取り憑くんじゃねえ」 健一はただ驚いていて未来の健一を見た。 健一は何もしていない。 これが冥界の力か。 未来の健一がスマホに目線を送った。 [この通りに、しっかりと辰夫の眼を睨んで言え]
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加