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[お前に怖い思いはさせるが、痛い思いはさせない。冥界に棲む俺の力を信じろ。これからはお前の携帯のメールで話をする。スマホを忘れるな。俺についてこい]
未来の健一は、ドアをすり抜けて出て行った。
「待てよ。俺ってこんなせっかちだったっけ」
健一は慌てて部屋を出た。
健一の車で、未来の健一からのスマホのメールの指示通りに、大崎の二建てのアパートに来た。
麗子達はこのアパートの二階の端の部屋に住んでいて、今二人とも部屋にいると言う。
ダブル健一はその部屋のドアの前に立った。
健一は緊張で顔が強張って来た。
[覚悟はいいな。ドアをノックしろ]
未来の健一がスマホで言った。健一は自分を鼓舞するように強く頷いた。
ドアを二回叩いた。中から女の声がした。
「どちら様ですか?」
健一はドラマに良くあるシーンの真似をした。
「宅急便です」
ドアが開いた。そこに逢いたくて堪らなかった麗子が立っていた。
抱き締めたい衝動を必死で抑えた。
麗子は驚愕の表情で健一を見た。
見開いた瞳が揺れている。
[麗子を無視して中へ入れ]
健一はスマホを見た。スマホが言っている。
健一は麗子を押し退けて中へ入った。
居間にいた辰夫と眼が合った。
「誰だ、てめえは。人の家に何、勝手に入って来てるんだよ」
辰夫が立ち上がって健一の胸倉を掴んだ。
健一は気が弱い。
殴られる恐怖で身がすくんだ。逃げ出す訳にもいかない。
「助けてくれ」
健一は未来の健一を見て、声にならぬようにゆっくりと、口だけ動かして、心の中では思いっきり叫んだ。
その刹那、辰夫の身体は空中に浮かび上がり、一旦天井に押し付けられ、それから後ろの壁まで吹っ飛び、壁で背中をしたたか打った。
「何をするんですか」
麗子は健一をなじり、辰夫の側にに走り寄り介抱しようとした。
辰夫は痛みに呻きながら、気味悪そうに健一を睨んでいる。
「手も触れずに俺を吹っ飛ばしやがった。てめえは何者だ。化け物か。俺に取り憑くんじゃねえ」
健一はただ驚いていて未来の健一を見た。
健一は何もしていない。
これが冥界の力か。
未来の健一がスマホに目線を送った。
[この通りに、しっかりと辰夫の眼を睨んで言え]
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