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[冥界の力を信じろって言ったろ。麗子の脳内に映像で未来の姿を映すんだよ]
(そんなこと出来るのか)
(そんなことやめなさい)
突然、未来の健一の前に麗子がもう一人現われて立っている。
今の麗子より少し年が増し、やつれている。
今の麗子と辰夫が驚愕の表情を浮かべ、もう一人の麗子を見詰めている。
(何者だ)
健一は未来の健一を見た。未来の健一も驚きを隠していない。
(あんたと同じ未来の麗子か)
未来の健一は返事もせずに、黙って現われた麗子を見ている。
(冥界にいるとは知らなかった。麗子、冥界にいるのなら何で教えてくれなかった]
(あなたとは格が違ったから。あなたが私を救いに現生に来て過ちを犯すから、助けろと指示された)
(俺が過ちを犯す? そんなことはしない)
(今の私に未来を見せようとしたでしょ。それが過ち。今の私は裏切ったあなたを嫌って、辰夫を本当に慕って大事に思っているの。あなたは私を捨てて地獄の底に突き落とした。あの時私は辰夫と何も無かったのに、疑って冷たく私を捨てた。辰夫が私にした仕打ちと変わらない)
(あの時は男の余計な意地を張ってしまったんだ。愛する気持ちは変わらなかった。済まない、謝る)
未来の健一は、未来の麗子に頭を下げた。
未来の健一と未来の麗子はただ見詰め合って、未来の健一が謝っているように見える。
健一は二人にに無視されているような気がして、腹が立って来て、語気強く言った。
「二人で何話してんだよ。俺を無視しているのか。ふざけるな」
[悪い、悪い。無視していた訳では無い。この人は未来の麗子。勿論死んでいて、冥界の人だ。俺をフォローしに来てくれた]
「辰夫や麗子にあんたは見えないのに、何で俺には未来の麗子が見えるんだ?」
[心の交わりの深さで霊波が同調するからだ。今の麗子にも俺は見えているはずだ]
麗子に知れてはならぬと思った健一は、再び言いたいことを心に思った。
(それで麗子をどうするんだ)
[麗子と話してどうするか決める。お前も麗子の本心を知っておくべきだろう。俺達の思念をお前に送る]
[何であなたは、別れないようにするのじゃ無くて、今の麗子を救おうと思ったの?]
[不幸な人生を知れば、幸せをより強く感じて貰えると思ったからだ]
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