ミント

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「何回言われてもお前には応えられないって言ってるだろう」 ――しってるよ。でも、言いたいから 白い紙はすぐに黒く埋まる。彼女と俺のやり取りの証だ。 わずかに残っている白い部分を見つけて、俺は彼女の持っていたペンを取り上げる。 なに? と彼女は首を傾げた。 ――二十歳になったら、考えてやる そうペンを走らせると彼女の顔が勢いよく上がった。 ほんと? と信じられない面もちで彼女が尋ねる。 「ほんとだ。だから、負けるなよ」 歳の離れた幼なじみを心の奥底で想いながらそっと抱きしめる。 うんうん、と頷いて腕に収まる彼女は細くて華奢だ。 筋力も落ちて、本当なら起き上がっているのも辛いはずだ。 でも彼女は悲観しない。生きる希望を常に持ち続けている。 「美都」 十九歳と十一ヶ月。二十歳までは後1ヶ月を切っている。 だが、その一ヶ月が彼女にとっては長い年月だ。 生きられるのは二十歳まで。 その事実を彼女は知らない。 「誕生日、何が欲しいか考えとけ」 わかった。 そう口に出す代わりに、彼女の弱々しい腕が静かに背中に回った。 美都=ミント。ミントの花言葉は【限りある時間】。 その限りある時間の中、精一杯前向きに生きようとする美都に合う名前だと、俺は思う。 fin. 全ての話はフィクションです。 ※話すことが出来ない不治の病を持つ女の子の、その女の子の為に医者になり見守り続けた男の切ないラブストーリー。
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