0人が本棚に入れています
本棚に追加
「何回言われてもお前には応えられないって言ってるだろう」
――しってるよ。でも、言いたいから
白い紙はすぐに黒く埋まる。彼女と俺のやり取りの証だ。
わずかに残っている白い部分を見つけて、俺は彼女の持っていたペンを取り上げる。
なに? と彼女は首を傾げた。
――二十歳になったら、考えてやる
そうペンを走らせると彼女の顔が勢いよく上がった。
ほんと? と信じられない面もちで彼女が尋ねる。
「ほんとだ。だから、負けるなよ」
歳の離れた幼なじみを心の奥底で想いながらそっと抱きしめる。
うんうん、と頷いて腕に収まる彼女は細くて華奢だ。
筋力も落ちて、本当なら起き上がっているのも辛いはずだ。
でも彼女は悲観しない。生きる希望を常に持ち続けている。
「美都」
十九歳と十一ヶ月。二十歳までは後1ヶ月を切っている。
だが、その一ヶ月が彼女にとっては長い年月だ。
生きられるのは二十歳まで。
その事実を彼女は知らない。
「誕生日、何が欲しいか考えとけ」
わかった。
そう口に出す代わりに、彼女の弱々しい腕が静かに背中に回った。
美都=ミント。ミントの花言葉は【限りある時間】。
その限りある時間の中、精一杯前向きに生きようとする美都に合う名前だと、俺は思う。
fin.
全ての話はフィクションです。
※話すことが出来ない不治の病を持つ女の子の、その女の子の為に医者になり見守り続けた男の切ないラブストーリー。
最初のコメントを投稿しよう!